第1489夜 【きしゃのゆ】

【きしゃのゆ】

福音館書店 こどものとも 通巻729号 2016年12月1日発行

尾崎玄一郎  尾崎由紀奈 作

待っていました、また会える日を。

【おしいれじいさん】の作家さんの絵本だとすぐにわかりました。

あの不思議な世界をほうふつとさせる表紙の絵です。

独特の"暗さ”が魅力なんです。

紫色が印象的な―。

今度はどんな世界へ連れて行ってくれるのでしょうか。

主人公は?汽車”です。

我ふるさと秋田では?電車”ということばより?汽車”ということばがポピュラーです。

少なくとも私の年代では。

だって、?電車”じゃなかったんですから。

何時代ですかと言われるでしょうが、中学の木造校舎の二階の教室から、蒸気機関車が走るのを、授業中眺めていたものです。

日常の風景だったので、今の蒸気機関車に対する熱狂のようなものはもちろんありませんでした。

表紙をめくった見開きで、主人公の「ごうた(汽車)」が森の中で迷子になっています。

この横長の見開きがとても効果的で、一気に絵本の世界に入り込んでいました。

左右に長く敷かれた線路

うっそうと立ち並ぶ木々の幹

ザーザーというよりはサーサーという音が聞こえそうに降っている雨

暗い絵の中の「きしゃのゆ」というタイトル文字も、ちょっと揺らいで怪しげです。

仕事を始めたばかりの「ごうた」はまだ道をよく覚えていないのでした。

寒いし、疲れたしで不安がつのっていたその時、前から煙が流れてきました。

近づいて、恐る恐る中をのぞいてみると(このアングル、迫力あり)、

大きなのれんの向こうには至ってのどかな空間がありました。

そこは「きしゃのゆ」という汽車のための銭湯だったのです。

面倒見のいい番台のおばさんと、常連らしきおじいさんに誘導され、

「ごうた」は銭湯初体験です。

汽車ですから、常に線路の上を行くわけで、動きに制限があって窮屈かと思いきや、

心憎いほど巧みなアイディアに満ちています。

「きしゃのゆ」全体を上空から、つまりドローンの視界で描いている見開きのページでは、

胸のドキドキが聞こえるほど興奮しました。

『ありがとう、全部見せてくれて。ものすごーくわかりやすい!』

洗い場に用意されているサービスには、思わず、『人間のわたくしにもこの設備が欲しーい!』と

心の中で叫んでしまいました。

体の部所に応じたスポンジやブラシ

いっぺんに三か所(頭上)からすごい勢いで出てくるシャワー

体を持ち上げ、下からも浴びせてくれるシャワー

気持ちよさそう!

そのあと広い湯船につかったら、

「はあ、ごくらく ごくらく」

の声が出るというものです。

再び長い線路の上を走っていく「ごうた」には活力がみなぎっています。

いやあ、お風呂って本当にいいですね。

週に一、二度は夫と温泉施設に通っているほどお風呂が大好きです。

昨日など、朝の9時にインして、4時半までステイしてきました。

(途中、岩盤浴利用)

それでも、この絵本を読んだら、直ちにまた出かけたくなりました。

「ごうた」にとっての?オイルミルク”は、私にとってのフルーツジュースです。

尾崎玄一郎さん・尾崎由紀奈さんの絵本は、第1096夜でも紹介しています。