択捉島にレアメタル?? 世界屈指の戦略資源、レニウムが大量存在か 。ジェットエンジンやガスタービンの高効率化に不可欠な金属の実態とは - EMERALD WEB ≪拝啓 福澤諭吉さま≫

択捉島に世界屈指の戦略資源、レニウムが大量存在か

ジェットエンジンガスタービンの高効率化に不可欠な金属の実態とは

2018.6.27(水)  JBPRESS

エンジンを吹かして飛ぶロシア空軍機。このエンジンに必須なレアメタル択捉島にある。

 北方領土レアメタル資源。しかも戦略物資。よりによって揉めている場所に、さらにお互い譲れなくなるような

資源が見つかる。まるで、人間をわざと余計に争わせるために、狙ってやったかのような自然のイタズラである。

 ここ数年、領土問題解決を目指した日露首脳会談が続いてきた。つい先月にも、サンクト・ペテルブルクでの

経済フォーラムの際に首脳会談がなされている。

 2015年冬以降、その首脳会談と平行するかのように、択捉島レニウムなるレアメタルがあるという報道がされてきた。

しかも、その量は世界の年間使用量の半分以上である。加えて、このレニウムは、軍事に用いられるという。

 資源に乏しいゆえにいろいろ痛い目にあってきた日本としては、レアメタル資源などと聞くと、喉から手が出るほど

欲しくなる。一方、戦略物資となると、ロシアも手放せないのではないか。報道でもこのレニウムは領土交渉の

障害になるものと扱われた。

 その後、続報がないため、択捉島レアメタル資源が存在するということが、日本でも広まった状態でいる。

 実際、金属資源や北方領土に感心の高い方から問い合わせを受けることがある。また、ロシアでも年間36.7トンの

レニウムが生産可能として、投資プロジェクトになっている。

 本当にそのような量のレニウム資源があるのなら、もっと注目されていいくらいだ。

 北方領土交渉に目に見える進展はないが、実はレニウム資源がその原因だったということもあり得るからだ。

しかし、あくまでも本当の話ならである。実態はどうなのかということに迫ってみたい。

マニアック過ぎる金属レニウム

 レニウムとはどのような金属であろうか。この金属の名前でピンとくる方がいらっしゃれば、特殊な業界で

ご活躍の方か、好奇心が極めて旺盛な方である。高校までの化学の授業で出てくるような金属ではないし、

存在量は金やプラチナより少ない。

 普通の金属であれば、金の鉱石とか鉄の鉱石というものが存在するが、レニウムの鉱石は存在しない。

鉱石が存在しないほどレアなのだ。

 銅やモリブデンの鉱石に不純物として含まれるレニウムが、銅やモリブデンを精製する際のの副産物として

製造されている。

 銅やモリブデンの採掘や生産の盛んなチリや米国が主要生産国となる。資源として銅やモリブデンがなくても、

銅やモリブデンの鉱石を精錬するとレニウムを回収できる。実は、日本も銅精錬が盛んなので、レニウムを生産している。

 年間生産量は全世界で50〜60トンほど。本当に択捉島で年間36.7トン生産できるのであれば、

世界のレニウム供給体制は全く変わってしまうだろう。

 レニウムの用途は、マニアック過ぎるものに限定される。貴金属のような宝飾品や資産として用いられることはない。

そのせいで、金やプラチナよりもレアなのに、価格は1グラムあたり300円程度と金の10分の1以下である。

 用途を見みると、化学工業用触媒、X線発生用ターゲット、超高温用の温度センサーなど、普通に生活している限り

一生お目にかからないものばかりである。

 その中でも最大の用途は、用途の7割以上を占めるジェットエンジンガスタービンのタービン翼である。

旅客機のジェットエンジンにおけるタービン翼の場所(出所:ボーイング社ウエブサイト)

タービン翼(左)とガスタービンに組み込まれたタービン翼(右)(出所:日立製作所Website) 機械の部品で最も厳しい環境にさらされる。

白く見えるのはセラミックスの耐熱コーティングで覆われているからである)

レニウムは空軍に必須

 ジェットエンジンガスタービンは、原理上、タービンに吹きつけるガスの温度を上げれば上げるほど

性能・効率が高くなる。

 例えば、燃焼室に最も近い1段目のタービンの耐熱温度を40度上げると、ジェットエンジンの燃費が1%改善する。

1%と言っても侮ってはならない。2017年度の日本航空の燃料費は2152億円である。1%の燃費の改善で約20億円が

節約できるのである。

 特に環境が苛酷な1段目のタービン翼の耐熱温度を上げることは、ジェットエンジンガスタービンの開発で、

最重要課題の一つとなっている。

燃料費で回収できるので、贅沢をすることが正当化できる。レニウムのようなグラム単位で取引される金属も

使用可能なのだ。

 タービン翼は最も過酷な環境で使われる工業製品と言われる。最新のガスタービンでは最大で摂氏1600度に

耐えなければならない。高温の火で焼かれているようなものなのだが、燃えてしまってはならない。

 また、使用中は毎分1万回転を超えることもあり、何百グラムのタービンブレードは、何トンもの遠心力に

晒されることになる。それでも、変形や破壊は絶対に避けなければならない。

 タービン翼はタービン翼そのものの耐熱性向上、冷却、コーティングの組み合わせでようやく1600度に耐えている。

レニウムはタービン翼そのものの耐熱性を向上させるのに用いられている。

 タービン翼は、ニッケルに高価なレアメタルをふんだんに使った合金で作られる。混ぜる金属はアルミ、クロム、

コバルト、モリブデンタンタルハフニウムルテニウムと今回の主役レニウムである。

 アルミは別として、ほかはレアメタルである。銀より高いレニウムと、本物の貴金属でグラムあたり1000円近い

ルテニウムが特に高価である。

 ニッケル以外の成分で40%以上に達するが、中でも最も高いレニウムルテニウムが、合計で10%程度を

占めていることから、いかに贅沢な合金かが分かる。

 この高価な合金に特殊な組織を持たせることで、高温に耐えられるようにする。普通の金属は結晶が集まった組織を

持つが、結晶と結晶の境界が壊れる原因となる。

 特に温度の高い部分に用いられる一つのタービン翼は、結晶粒界のない一つの結晶(単結晶)で作られる。

 実は、単結晶にするだけでは足りない。結晶には欠陥がある。金属の分子が動き欠陥が移動することで、

変形してしまう。タービン翼では、欠陥が移動していくことで、伸ばされるように変形し、最後に千切れてしまう。

 先ほど説明した合金で作った単結晶では、熱処理をすると欠陥の移動を止める格子状の組織が現れる性質を持つ。

 レニウムの原子は動きにくい性質を持ち、格子状の組織を強固に保つ役割を果たす。格子状の組織が強固であれば、

強固であるほどタービン翼は変形・破損に強くなり、耐熱温度が上がる。

 タービン翼の電子顕微鏡写真(出所:日本ガスタービン学会ウエブサイト) 格子状の組織が高温で強烈な力に耐える秘密である。余談ながら、

タービン翼用合金の開発では日本は世界トップレベルで、「ボーイング787」の「トレント1000エンジン」に日本が開発した合金が用いられている。

 レニウムを混ぜることにより、タービン翼の耐熱温度は上がる。最初にレニウムを使用したタービン翼では、

レニウムを3%混ぜた結果、タービン翼では25度耐熱温度が上がった。

 タービンの耐熱温度が40度上がると、日本航空で20億円削減できると書いたが、25度というのは決して小さい

数字ではない。

 現在のタービン翼用合金には、レニウムは5%前後含まれている。もちろん、他の金属の役割もあって、耐熱性を

支えているが、現在ではレニウムなくしてタービン翼はあり得ない状況である。

 なお、レニウムは高価なので、レニウムを削減する努力もなされた。しかし、レニウムを省くコストダウンより、

レニウムを増やしてでも燃費向上をした方がはるかにコストダウンになる。

 レニウムは当然混ぜるとして、レニウムよりも高価なルテニウムを加えた合金が開発され、それが主流になって

いるのが実情である。現時点で、レニウムを節約するタービン翼などあり得ないのである。

 当然、ロシア空軍の戦闘機を含め、戦闘機のジェットエンジンレニウムを使用する。レニウムがなければ、

エンジンの性能も、耐久性も落ちる。つまり、レニウムは空軍力を支えるレアメタルと言える。

 もっとも、レニウムは戦略物資としてのイメージが先行してしまっているようだ。それはそれで正しい。

 とは言え、レニウムの使用量は、航空分野では旅客機の方が多く、発電用のガスタービンでもレニウムは必須である。

飛行機で旅行をする限り、電気を使う限り、レニウムを利用しているとも言える。

 実は、一生お目にかからないようなレニウムの恩恵を、誰もが受けているのである。航空機や発電所の燃料消費を

押さえるレニウムは、戦略物資であると同時に省エネ用レアメタルと理解するのが正確であろう。

択捉島レニウムは本当に空軍力を強化するか

 レニウムという金属は、産業界においても、軍事においても欠くべからざる金属である。特に、ジェットエンジン

性能を左右する部品に必要なものであるので、空軍力と結びつく。

 したがって戦略物資と見做される。日本もロシアもレニウムというレアメタルを必要としていることは確かである。

 そのようなレアメタルの資源が、領土問題が発生している場所にある。そこだけを聞くと、いかにも領土問題を

こじらせる要因のように見える。

 しかし、産業においても、軍事においても、量があまりに少なければ意味がない。また、コストがあまりにも

高ければ、そのようなものは使うことができない。

 レニウムが重要であることは明らかである。しかし、領土問題への影響を推測するには、択捉島レニウム

資源としていかほどのものかということが検証されるべきであろう。

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