TIMELESS ( 読書 )

著者  朝吹 真理子

出版社 新潮社

 

 好きな人とは子どもをつくるのがこわいというアミと、これまで誰かをいとしいと感じたことのないうみ。互いに恋愛感情を持たないふたりはただ交配するためだけに結婚する。だが、息子のアオが生まれるまえにアミが失踪する。

 高校の修学旅行で訪れた広島の平和資料館や、徳川秀忠の妻の江姫の荼毘所があった400年前の六本木。時間旅行のように行き来するうみの思考のなかに、高校では存在しか知らなかったアミの姿が映し出される。うみの物語であるTIMELESS 1で描かれるアミとの結婚生活には、うみの母の芽衣子の不在や突然感情を爆発させる父がかすかな影を落とす。

 TIMELESS 2はアオの物語である。祖母、芽衣子の仕事を継いで奈良を訪れたアオが体験する不思議な出来事もまた、時を越え、幻想と現実の境界を越える。

 逗子の別荘を舞台にした2人の女性の友情を詩的に描いた第144回芥川賞受賞作『きことわ』は、夢と現実の乖離や白昼夢に現れるドッペルゲンガーが鮮やかな印象を残す作品だった。本書でも、奈良でアオが滞在する家のブラックホールを思わせる世界や、アミ固執する被爆三世としての恐怖が現実をじわりと浸食する。幻想と現実が隣り合わせに共存する独特の作品世界が魅力的である。