似顔絵捜査官第14話空になる

私はあの喫茶店でフラれたついでに一つだけお願いしたことがあった。

もう一度沙希ちゃんと会わせていただけませんか?

私の失恋相手こと、川田巡査は

もちろんいいですよ!と快諾してくれた。私と川田巡査は日にちを合わせて休みを取った。

当日、私はいつもとは違ってばっちりメイクを決めて、いつものデニムは履かず、お気に入りの赤いパーカーもやめて、少しオシャレな青のワンピースを着て、黒色のピンヒールを履いて、いつもとは違う高さの視点に新鮮さを覚えながら慣れない足つきで外へ出た。もちろん絵を描く用事はないのでいつものリュックサックも置いてきている。

川田巡査と合流したら私の格好になんていうだろう。少しドキドキもした。私は乙女である。

約束の時間より20分も早く着いてしまった。何もせずに待った。15分ほど待ったとき川田巡査は沙希ちゃんを連れて現れた。

あれ、あれれれれれ!どーしちゃったんですか!松下さん!女優さんがテレビから飛び出してきたのかと思いましたよ!と言って、集合時間には遅れていないのに、

ああ、失礼しました。大変お待たせいたしました。待ってる間、ナンパとかされませんでしたか?

半分セクハラまがいな事まで言ってきた。本当にこの男は。顔がほころぶ。

お姉さん。キレイ。

沙希ちゃんもお世辞の上手い子である。

ありがとう。沙希ちゃんにまた会えてとても嬉しいよ。

今日は川田巡査の車でお出かけする事になっている。行く場所は私から行きたいとお願いした山頂の展望台である。

それより、その格好で山頂の展望台に行くんですか?まるで高級レストランにでも行きそうな雰囲気ですが。

いいんです。

せめて、靴はしっかりしたものにしましょう?流石にピンヒールじゃ足挫きますよ。

大丈夫です。ビックリさせようと思ってこの格好で来ただけなので、山を歩く時の靴は持ってきてあるんです。

川田巡査を騙せた嬉しさと気遣ってくれた嬉しさとでウキウキしながら私は川田巡査の車の助手席に座った。

車は山の方向に向かって走り、10分ほどで麓に到着。車の中で靴を履き替えて、山道を歩き20分ほどで山頂の展望台に到着した。

青い空を見て、私はその空に反発する事なく同化し、風を感じた。私は空になる事を決心した。